「教訓」の美学

Life Heart Message2017.05.08

 

宗教改革者カルヴァンが活躍したスイスのジュネーブに生まれたジャン・ジャック・ルソーは、時計職人の子であった。10 歳の時、父と兄が失踪したため、孤児となる。金細工師のもとで徒弟となるが、15 歳で家出した後、フランス各地で放浪生活の住所不定のフリーター、貴婦人のヒモ、作家となるが、家族からも、共同体からも国家からも見捨てられ、まともな学校教育を一度も受けることなく、読書によって思索を深め、やがて独特の思想体系を打ち立てていく。

 

「人間は本来善良であるが、堕落を正当化する社会制度によって邪悪となっている」という直感から、「文化を健全化させるには人間の自然である「良心の声に耳を傾ければ」良いと見解を示し、人間の良心に学問や哲学、芸術を基礎付けるべきだと主張した。

 

『人間不平等起源論』でルソーは、人類が知恵を持つようになり、鍬(くわ)を打ち込んで土地を耕し、わなを仕掛けて獲物を取るようになると、富の不均衡が生まれ、増大していく。

 

私有財産の成立が、戦争と階級社会を生み、暴力は立法に代わり、不平等と身分制度が固定化される。争いの勝者が「調停者」と称して法を定め、所有権を保障し、職業的な為政者・法律家が生まれ、これが世襲化され、一方には奴隷制が生まれ、他方には専制君主政が生まれた。

 

ルソーが論じた『社会契約論』は、「人間は自由なものとして生まれた。しかもいたるところで鎖につながれている。自分が他人の主人であると思っているようなものも、実はその人々以上にドレイなのだ」とある。現実の専制国家、不平等社会の束縛から、人類を開放するための新たな社会契約のあり方を論じたのであった。

 

この書は、未来社会の設計図としてフランス革命の指針ともなったのである。ルソーの著作をむさぼるように読み、晩年のルソーに密かに会いに行ったロベスピエールは、熱烈な献辞を書いている。「神のような人(中略)弱小の私に自己の天性の尊厳を理解させ、社会秩序の大原則を反省させた。(中略)私は真理の崇拝にささげる。尊い生命の苦しみを理解し、私はその苦しみの前にたじろかなかった。」と記した彼は、フランス革命の最高指導者として、国王ルイ16 世の処刑を発議し、反革命容疑者として数千人をギロチンに送った。

 

民衆の暴力を背景の恐怖政治の断行は、もはや断頭台の刃は休む暇もなく、革命に熱狂していた民衆は潮が引くように去り、国民公会の決議によりロベスピエールも断頭台の露と消える。おびただしい血を流し、2 万人の犠牲の上にフランス革命は終結する。

 

しかし戦争はなおも続き、ナポレオンの第一帝政→敗戦による王政復古→2 月革命による第二共和政→ナポレオン3 世の第二帝政→普仏戦争の敗戦による第三共和政→パリ・コミューンの失敗・・・・そのたびに多く血が流れた。ルソーには、全体主義につながることを予見できなかった。

 

人類史上最も大量の殺戮が行われた20 世紀の悪夢を繰り返さないため、謙虚に歴史から学ぶ必要があるのではなかろうか・・・