「エッセンス」の美学

Life Heart Message2017.02.27

 

ノーベル文学賞を受賞したインドの詩聖・ラビンドラナート・タゴール(1861~1941)は、1916 年に来日した時、慶應義塾大学で「日本の精神」という講演をして、日本の伝統的な文化について次のように述べた。

 

「日本は一つの完全な形式をもった文化を生んできたのであり、その美の中に真理を、真理の中に美を見抜く視覚を発展させてきました(中略)。日本は正しく明確で、完全な何物かを樹立してきたのであります。それが何であるかは、あなたがたご自身よりも外国人にとって、もっと容易に知ることが出来るのであります。それは紛れもなく、全人類にとって貴重なものです。それは多くの民族の中で日本だけが単なる適応性の力からではなく、その内面の魂の底から生み出してきたものなのです。」と。詩人ならではの感性で、日本の伝統的な文化に秘沈されている資質を「美の中に真理を、真理の中に美を」見抜く眼をもっていられた。

 

また、タゴールは「日本は、森の葉ずれの囁きや溜め息、あるいは波のすすり泣きを、心の中に取り入れてきました」と指摘し、日本人の自然観を美意識に結びつけて、日本の伝統的な文化の「力」、日本民族の「天才」として評価している。「自然はその力を、美の形の中に保持することを貴方がたは発見されました。(中略)愛と喜びの中で、自然と結合するというそのことこそ、真の天才の成す業(わ ざ)であります。日本民族はその天才を示したのであります。」

 

タゴールがこのように日本文化を称賛した裏には、アジアにおける西洋文明の「物質力」や「利己主義」の広がりに対しての批判があった。20 世紀の始め、インドはまだイギリスの植民地であり、タゴールの故郷ベンガルでは反英運動がとくに激しかったゆえに、アジアの「西洋化」に対する強い反発をもっていた。その一方で、タゴールはイギリス留学を通じて、「西洋から学ぶべきものも多くある」と指摘している。

 

そして、日本の「精神的文化」はどれほど時代の嵐にさらされても、容易に消えるほど脆弱なものではない。と、言ったのは、日本の文化や文学は、武力や戦争にはほど遠いものであったからである。感じること、志すこと、悩むこと、それらを関連づけ、結びつけているのは「心」であり、日本古典文学のエッセンスであり、無限の可能性を象徴する表現であった。「心づくし」「心をこめてすること」そして「さまざまに思うこと」「心を寄せる」ことも、「心を寄せられたもの」をも意味する。

 

「みな人の 心づくしに和歌のうらを かきぞとどむる もじの関守」やまと言葉の表現力を最大限に発揮したこの歌は、わずか31 文字で見事に要約した古代びとの思想のエッセンスである。「蔵の財(たから)よりも身の財すぐれたり。身の財より心の財第一なり。此の御文を御覧あらんよりは心の財をつませ給うべし」

 

日本人は本来最も心を大切にした“心の民”だったのだから…