「前衛」の美学

Life Heart Message 2017.08.28

 

ストラヴィンスキーが初めてシェーンベルクの音楽を聴いたとき、すぐにこの先輩音楽家の重要性に気づいた。一線はすでに越えられていたのだ。若きスラヴィンスキーは手紙に「シェーンベルクは現代の最も偉大な創造者の一人だ」と書いていたが、ウィーンの市民は同意しなかった。彼の作品の『浄められた夜』は、未知の不協和音が含まれているという理由で、ウィーンの音楽協会から演奏を禁止された。

 

ストラヴィンスキーの『春の祭典』の初演の2 か月前、シェーンベルクの室内交響曲第1 番作品9が演奏されている最中に、彼と観客との脆い関係はついに崩壊する。シェーンベルクの聴衆は彼の斬新さに反発を感じ、舞台に向かって怒鳴り、警察を呼んで、演奏を中止させた。精神的ショックを受けた聴衆を代弁して、医師たちは、シェーンベルクの無調は情緒的・心理的苦痛をもたらすと断言した。新聞には訴訟や殴り合いといった見出しが溢れたが、シェーンベルクは後悔していなかった。

 

ストラヴィンスキーは、このシェーンベルクの切り開いた新しい道に足を踏み入れたのである。その『春の祭典』の冒頭は、うっとりするような音の旋律を響かせたが、自然がみずからの形を更新する瞬間に、すべてのものが、経験する壮絶な感覚のように、ストラヴィンスキーの管弦楽曲のすさまじい不協和音が始まり、第2 楽節は、頭痛や吐き気を催しそうな、途方もない音で始めるこの曲の最も乱暴な転調を、彼は『春の兆し』と題していた。

 

突然、春の森羅万象が、いっせいに叫び声を上げる緊張がどんどん高まっていくが、捌け口がない。その時、観客が悲鳴を上げ始めた。『春の祭典』はすでに暴動の引き金を引いてしまった。もう止めることはできなかった。ブルジョアの観客たちは口論を始めた。

 

年配の婦人たちは若い芸術愛好家たちに食ってかかった。屈辱的な言葉がバレリーナに浴びせられた。騒ぎがはげしくなり、指揮者は何を指揮しているか聞こえなかった。

 

オーケストラは混乱し、不協和音は現実の騒乱に取って代わられた。ストラヴィンスキーは激怒して、「ぼくの芸術が愚昧な大衆によって破壊されようとしている!」と、座席を飛び出して、舞台裏に馳けつけた。 古典バレエの伝統を打ち破った、ニジンスキーの演出は、後にダンサーたちは、あの踊りは内臓を揺さぶったと語った。それはストラヴィンスキーの曲に負けないくらい激烈に新しいダンスだった。

 

やがてパリ警察が到着したが、さらなる混乱を招いた。その夜の暴動によって、ストラヴィンスキーは一躍「時の人」となり、前衛芸術のアイドルになった。天性のモダニストであった彼の『春の祭典』は、人間のいない交響曲の音は「美が目覚める前の」音の響きだった。私たちの美的感覚は変化するものであり、ストラヴィンスキーは「みんな、そろそろ新しいものを学ぶべきだ」と宣言したのである。

 

T・S・エリオットは「危険を省みぬ者だけが、限界を見出せるかもしれない」と、言った。