「慈善」の美学

Life Heart Message 2017.10.09

 

1997 年10 月21 日に、アイルランドでもっとも話題になる晩餐会が開かれた。それはアイルランドの大学に何百万ドルを寄付した謎の慈善団体アトランティック・フィランソロフィーズの理事を迎えた時であった。アイルランドのノーベル賞詩人シェイマス・ヒーニーとその妻で作家のメアリー・ヒーニー、そして二人のアメリカ人といっしょの最上位のテーブルに案内された。アメリカ人の一人は弁護士、そしてもう一人は背の低い愛想のいいチャック・フィー

ニーと名乗った。

 

来賓のアイルランドの教育官僚のトップであるドン・ソーンヒルは、ピンときた。北アイルランドの和平プロセスで、北も南もあわせてアイルランドにもたらした何億ドルもの匿名寄付したアイルランド系アメリカ人が関わっていたという話を読んだことがあったのだ。

 

ノーベル受賞者ヒーニーは語った。「紳士淑女のみなさん、アトランティック財団が何年にもわたり、伝説的な慈善事業を展開してきた手法をまねようとしてのことなのです。」自分がここにいるのは「財団の活動の壮大さと、その理事たちの寡黙さをたたえるためであり、中でも伝説的なのがチャック・フィーニー氏です。」それは単に慈善のすばらしい伝説からくるばかりでなく、「見事な無私性、聖フランチェスコ的な禁欲と、ルネッサンス的な壮大さが、チャック・フィーニーという人物に結集した結果なのです。」

 

詩人は結びにあたり「停戦とビロード革命とアトランティック財団が、今世紀の終わりに起こったことの音楽における、救いの伴奏なのです」と述べて、最後に自分の戯曲『トロイでの治療』から感動的な引用で終えた。「歴史は言う、墓の/こちら側では期待するなと/だがしかしごくまれに/待ち焦がれた正義の/津波が頭をもたげ/希望と歴史が韻を踏むのだ。」

 

見事なスピーチにいつも賞賛や感謝を受けるのを非常にいやがるチャック・フィーニーですら、深く感動した。

 

1997 年に大型秘密慈善家だというのが明かされて、一瞬知名度が上がったにもかかわらず、それほど知られていなかった。たった一人の卒業生から6 億ドルの多額の寄付を受けたコーネル大学は、アメリカではほかにない。最大の割合は高等教育と研究に向けられていた。「チャック・フィーニーは税金が大嫌いです。誰でも政府よりはお金を有効に使えるとかれは信じていました」と、ロールスは述べている。

 

フィーニーは「単に補助金を出すだけでなく、社会変革を主導する皮切り」となるべきと宣言し、政治キャンペーンには大金を出すことはなかった。アトランティック財団は、アムステルダム・インターナショナル・ヒューマンライツ・ファーストや、ヒューマン・ウォッチといった組織に寄付を行った。米軍主導のイラク侵攻前夜、かれはストップ・ザ・ウォー連合が主催したロンドンでの巨大抗議にも参加して、無数のデモ隊に混じって誰にも気づかれず、メイフェアからハイドパークまで歩いたのだった。

 

「巨万の富の持ち主は、存命中に価値ある目的を支援するために、富を使うという責任を自ら引き受けない限り、将来の世代にとって問題を作りだしかねない」と、フィーニーは記している。