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「敬虔」の美学

Life Heart Message 2017.11.06

 

日本列島に連なる四島と無数の島々は、外海を隔て、特有の美的感性をつくりあげてきた。日本人の衣食住は日本の風土によって育まれ、その自然の恵みに依存した生活環境が穏やかな気質と日本人の情緒性が、美意識の基となったと考えられる。歴史的にみると、奈良時代以来、大陸文化を積極的に受容しながらも日本の情緒や気質に合わせるように、文化の質を変容させてきたのであった。

 

日本人は古来より、日本の美しい自然に触発されながら美に目覚め、自然に対する繊細な感受性と鋭い観察眼を養い、その中からほんとうの美を見抜く洞察力を培ったといえる。

 

しかし、日本ほど毎年のように襲ってくる風水害、地震や火山の噴火などの天災地変に脅えながらも、その自然に対し畏敬の念を払い、そこに八百万(やおよろず)の神を見出す多神教ともいえる自然信仰が芽生え、自然の恵みに感謝しそこに美を求め、大自然と一体になることを至高とした民族は外の国にはない。日本人のこの自然への受容的で忍従的な気質を、和辻哲郎は台風的性格と言った。

 

ともあれ日本の詩歌などの文学のモチーフは、ほとんどが自然の象形であり、装飾美術の紋様の中心は花や唐草のような植物紋であり、次に日(太陽)、月、星、雲、霧、雪、雷などの気象紋がつづくという、いわば自然のかたちで占められている。

 

四季のある美しい日本では葉の色に限っても、若葉の緑から、秋の紅葉への移ろいゆく細やかな想いと情緒が生まれ、漂い、たゆたう心の美意識、移ろいの美意識が誕生する。

 

以来、日本では四季の色と時節を象徴するかたちが美を象徴する表象として人々の心を癒し、祭祀や行事から日常生活を取り巻く衣食住のすべてに自然界のすべての森羅万象が投影されている。

 

奈良時代にはめでたい吉祥の鳥として大陸直輸入の鳳凰や龍、麒麟の紋様が盛んに使われていたが、平安時代に入ると鶴や雁にとってかわり、和のかたちへと進化していく。着物に表れる自然からの紋様に、日本人が編みだした車紋、雲立湧、菊立湧や花筏、麻の葉、万字、紗綾形紋様、熨斗目紋様などの洗練された幾何学的な紋様が絶妙に組み合わされた多才な紋様が生まれた。江戸時代以降の小袖の着物の刺繍や染めの柄は、季節や自然の色とかたちに、小槌、宝船、鶴、亀、蝶、百足、海老、鯛から松竹梅などの吉祥や祝いに由来する紋様などある。

 

いずれにしても、日本の至高の美は、自然にあって、自然の中に美を見出す姿勢を常に貫いてきたところにあり、自然に対する人間の敬虔な態度を謙虚な心、優しさと捉えながら、優美という美意識に昇華させていったのではないだろうか。この日本文化の流れが、今日、海外から注目を浴びているクール・ジャパンへの潮流となっている。