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「辞典」の美学

Life Heart Message 2017.12.11

 

「人は仕事をするために生まれてくる」そして仕事は人生の意義であり目的で証しである。

 

ことわざに「木は実で見よ、人は仕事で見よ」「勤める」という言葉は「役に立つ、有用である、必要とされる」と説明されている。この言葉には「任務にある、職についている」という意味もある。また「尽力する」という語は「精を出す、心から願う」と解釈し、「まっすぐな」は「正しい、事実の、本物の」であり、「まさしくそれ」という。

 

「現用大ロシア語詳解辞典」別名「ダーリの辞典」は、ロシアの多くの民族(アルメニア人、グリジア人、バシキール人、カザフ人、シベリアやカフカ―スの諸民族の人の心に生きつづけた言葉を、ダーリ―人で全4 巻(約20 万語収録)の辞典を完成す。この辞典には3 万余のことわざがある。

 

1867 年に第21 分冊にして最終分冊が刊行された。なんとダーリ―人で入念に14 回も校正する。ダーリがこの辞典に取りかかったのは、ロシア近代文学の嚆矢とされたプーシキンであった。プーシキンは民衆の言葉を学ぶことに強い関心を示し、このことが二人を近づけた。

 

プーシキンは言った。「あなたが集めたものは単なる思いつきでも熱中の産物でもない。わが国では、これはまだまったく新しい仕事です。うらやましいなあ……」「プーシキンは、わたしが目ざしたこの方向を熱く支持してくれた」とダーリは言った。

 

残念ながら、プーシキンは決闘によって重傷を負う。プーシキンは最後の夜をダーリとふたりで過ごす。形見として弾丸の貫通した穴のあるフロックと、プーシキンのエメラルドの指輪も届いた。ダーリは言う、「これをさすると私のなかに火花が散って、書きたくなるのです……」「彼の書くどの一行もロシアの生活習慣と民衆の暮らしをよりよく理解させてくれ、私を教え、得心させてくれる」と言ったのはゴーゴリであった。ダーリは「詳解辞典」の序文に自分は「教師でもなければ指導者でもなく、師である生きたロシア語から聞かせてもらったものを生涯にわたってコツコツと集めてきた生徒だ」と称する。そしてここで「本の虫」と「賢いが素朴で学のない人」の話し言葉を比較し、常に後者の方がまさると言いきる。「言葉に宿る言霊(ことだま)を軽くあしらうことができないので言葉は明瞭に、率直に、簡潔に、そして優美に発せられる」のだと。

 

トルストイはダーリの考えに「我われが日頃書く言葉や、わたしが書いてきた言葉は偽りではあるまいか」と考え、文学の言葉と民衆の言葉が持つ「確かさ、明瞭さ、美しさ、そして節度」のほうに好感を示した。ダーリの「俚諺集」に、「忍耐と勤勉がすべてをぬぐい去る」「他人に尽くしたことは、自分の手にも入る」「賢者は学ぶことを、愚者は教えることを好む」「金はあっても頭は空っぽ」「友を探せ、見つかったら大事にせよ」「財布を惜しむと友はもてぬ」「ひとりの旧友はふたりの新しい友に優る」「友と飲めば、水も密より甘い」「言葉には人間に劣らぬ命がある」ダーリの誠実さ、真心、情愛の結晶の辞典だ!