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「弱さ」の美学

Life Heart Message 2018.02.05

 

現代の社会は、効率的な社会、均質な社会、「弱さ」を排除し、「強さ」と「競争」を至上原理としている。文明(強きもの)が自然(弱きもの)を支配するという近代的な図式が、一挙に逆転して、自然の猛威を前にした人間社会の弱さ、自然に対する支配としての科学技術が孕む弱さ、自然を外部性として閉め出すことによって成り立つ経済システムの弱さ、自然と切り離されたものとしての人間の弱さなどが暴露された。 いわば、近代文明の「強さ」であったはずのものが「弱さ」へと転化したのである。

 

逆に、近代的な社会の中で、「弱さ」と見なされてきたもの……巨大化、集中化、大量化、加速化、複雑化などに対する「スモール」、「スロー」、「シンプル」、「ローカル」といった負の価値を荷ってきたもの……が元来もっていたはずの「強さ」が浮かび上がってきたのではないか。この逆説的な事態―――「強さの弱さ」と「弱さの強さ」―――こそが、ポスト3・11の月日のひとつの重要な特徴ではなかろうか……我々は何かを残して、次の世代に渡す。死の事を考えると、子供の存在が圧倒的な力をもっている。子どもは、非常に複雑で豊かで可能性がある、しかも弱い。この「弱さ」に圧倒的な力があることを感じる。

 

オランダの町エルメローは人口3 万弱の小さな町が、大変人気があって、多くの人が住みたがっているという。この町の中心に駅があって、駅を降りるとそこが、フルトワイクと呼ばれる大きな精神病院の入口。病院には門も塀もなく、いつのまにか敷地に入って、いつ出たかもわからないくらい、緑豊かな公園みたいな美しい場所で、誰もが自由に散歩したり自転車で通ったりしている。そして、病院の周りに家を建てて、一般の人々が住んでいる。精神病院以外に知的障がい者や身体障がい者のための施設、青少年更生施設、視覚障がい者の学校などがあり、福祉はエルメローの経済の柱となっている。人工2 万8 千人の半数が障がい者だという。

 

でもその中心にあるのは、やはり精神病院で、135 年前、資産家フェルトワイク氏の寄付によって設立され、20 世紀はじめには、同胞がかかえる問題を自分たち自身で対処したいという市民の思いによって、「閉じ込める病院」から、「外へと開かれた病院」への転換を果した。

 

来る人が多く、観光収入も多い。駅前に瀟洒な商店街があって、障がい者の働く店、作業所、アトリエなどがある。窓に大きな文字で「困難の中にはいつも可能性がある」と、アインシュタインの言葉が記されていた。

 

清水義晴さんの詩に「水は低いところに溜まる/本当のものは低い所にある/上を目指す生き方から降りる生き方へ/「弱さ」には力がある/創る力・まとめる力・和らげる力・活かす力/誰かが勝てば負ける人がいる/得する人がいれば損する人がいる/成功する人がいれば支える人がいる/勝ちも負けも損得も成功・失敗も/手の表と裏のようなもの/負けてばかり損ばっかり/でも幸せばっかり/いまの人たちが持っているものはなく/いまの人たちが失ったものを持って

いる。」

 

「変革は弱いところ、小さいところ、遠いところから」学び直さなければならない。