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「気づかい」の美学

Life Heart Message 2018. 3.19

 

日本文化の研究で数々の功績を残しているドナルド・キーン博士が、京都に留学生として下宿していた時のこと。その日は月のきれいな晩で「月明かりに照らされた石庭をみたい」と彼は龍安寺を訪れ、石庭のあまりの美しさに時を忘れて、じっとたたずんでいた。ぼんやりとしながら一時間ほど見つめていると、ふと「カタッ」という音がした。何かと思ったら、隣には一杯のお茶が置いてあった。住職の奥さんが、じっと石庭を見つめている青年の邪魔をしまいと頃合いを見て、お茶を差し出した事に、ドナルド・キーン青年はこの何とも言えない日本的「気づかい」の感覚に感動したと言う。気づかいとは、他者を慮ることであり、相手が「欲しい」と言う前にその気持ちを汲みとり、さりげない行動で示す。相手のことを思い、自分がしたいからそうする。これが、日本人にしかできない気づかいである。

 

欧米流の考え方では、サービスの質は支払ったお金の額に比例する。簡単に言えば、お金を払った分だけいいサービスを受けられる。お金を払わなければサービスは一切受けられない。

 

サービスとはお金で買うもの、商品になっている。

 

しかし、気づかいはサービスではなく、文化的なものだからである。これは、日本が古くから培ってきた空気のようなもので、日本に触れたことのない人だとその感覚はわからない。逆に日本で育った人であればその感覚は必ず備わっている。気づかいの能力というのは、数値化することができないからである。相手を大切にする。和を大切にする。四季を大切にする。その感性から生まれる人への細やかな配慮や繊細な所作こそ、日本人にしかできない気づかいである。

 

ディズニーにもこの感性だけはマネできなかった。気づかいとは「心をもって正しきことを行なうこと」心というのは、人を思いやる気持ち。正しきこととは、相手の意に沿っているかどうか。「心を込めて、相手が望むことをする」心から人を気づかえば人間関係は良くなり、仕事は円滑になる。

 

ディズニーのジャパンパビリオンで接客中の上田比呂志が、80 歳ぐらいのアメリカ人老夫婦がショーケースの指輪をつけたり外したりしてはしゃいでいたが、奥様が真珠のネックレスを選んだ。「よくお似合いですね。記念日か何かですか?」と話しかけたところ、旦那様がにっこり笑って「これを買ってやるのに50 年かかったんだ」。若い頃小さなレストランを経営していて、村中の人気の店であったが、ある時、火事でお店が全焼して、財産はすべて燃え尽

き、その心労から奥様は子どもを流産して何度死のうと思ったが、ディズニーのコマーシャルに「ここに来れば、幸せになれる」って、必死で働いて今日ようやくここに来れたと……「お金がたまったら、真珠のネックレスがほしい」それが叶った。

 

ネックレスを包装した袋にメッセージを書いていた。「御二人が御気に召した指輪は、次にいらっしゃるまで孫のミッキーが預かっておきます。また元気でいらして、物語りの続きを教えてくださることを心待ちにしています」「ここがゴールと思っていたが、これからも夢を見ることができるんだ!」二人は何度も繰り返し、「ありがとう」と言って手をつないで帰って行かれた。このセンスこそ、サービスを越えた「気づかい」だったのだ。