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「矜持」の美学

Life Heart Message 2018.7.30

 

以前、W杯日韓共同開催の折、開催前の調整をおこなう各国の選手を迎え入れた日本の地方で、思いがけないことが起こった。外国人をはじめて間近かで見たこともない田舎のおじいさん、おばあさんが素朴な心で、精いっぱいのあたたかさとやさしさで、分け隔てなく選手たちを遇し、その対応に世界の選手たちは感動し、深く胸に刻んだという。

 

おもてなしは、日本人の美しさの太い芯になっている。日本の国柄、日本らしさ、その美しさはいたるところにある。たとえば、「一品」にこだわっている老舗がある。ちりめんじゃこなら、ちりめんじゃこだけ、金平糖なら、金平糖だけを扱い、つねにお客が並ぶ人気店である。豆腐や味噌、鰹節などを扱っている店にも、同じポリシーを持っている。人はたいがいのものは安くてよいものを選びながら、これだけはというものについては、高くても自分の好みのものを選ぶ。ちりめんじゃこだけは、京都の「あの店」のものでなければだめ、という。

 

その背景にあるのは日本人のメンタリティである。心に何をもたらすかを日本人は自覚している。「感じている」「何となくわかっている」「こだわりのあるもの」まさに愛着を持っていて、それがよろこびや幸せをもたらしてくれる。そのことを感じる心のやわらかさが、一品にこだわる店を支えている日本の心である。それは、単なる「もの」を超えて、心と結びついている。

 

よく日本人は繊細であると言われる。モノづくりにおいて指先の繊細さ、感性、感覚がつくり出す日本の製品は群を抜いている。東京・向島の「岡野工業」という町工場がある。「痛くない注射針」をつくった岡野雅行さんの職人としての技術は、打っても蚊が刺したくらいにしか感じない優れた注射針を開発した。理論物理学者として高名な大学教授は「物理的に不可能」と断じられたものを、職人の技が物理学の理論を超え「不可能を可能」にしてしまった。

 

また、下町の小規模の工場で開発された、無人海底探査機が世界ではじめて、7800メートルの海底の撮影に成功した。探査機は「江戸っ子1号」と命名されている。一方、京都や奈良の古い建造物の修復工事のため解体作業にあって、現代の宮大工さんを驚かせるのは、内部の作りの精妙さ、見事さだという。とてつもない匠の技が、そこにはほどこされていた。建物内部は誰の目にも触れることはない。明らかになるのは、五百年、さらに時が経ってから、自分の仕事の評価を自分の耳で聞くことはない。だが、当時の職人は評価に頓着せず、自己自身に忠実にできるかぎりの技をそこに投入した。

 

「見えないところほど、手を抜かない」それが日本の職人気質である。感嘆の声をあげた現代の職人さんは、必ず、「この仕事に対して恥ずかしくない仕事をしなければならない」として矜恃は受け継がれ、技も伝承されていくことであろう。